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ビール(Beer)

ビールの歴史

世界でもっとも広く飲まれている酒が、ビールであり、また、もっとも多量に
消費されている酒も、ビールである。このことに関しては、今や日本も例外では
なく、消費量No.1の酒は、ビールである。
現在、世界の数多いビール生産国の中で、代表的な国をあげるとするなら、歴
史の古さ、種類の多さの面でドイツ、イギリスをあげねばなるまい。今日のビー
ル産業に大きな影響を与えたという面では、デンマークがあげられる。また、マ
ーケティングの卓越さと、生産量の多さの面では、アメリカ、日本をあげること
ができる。

ビールは、大麦の麦芽(小麦麦芽を用いる特殊なビールもある)、水、ホップを
主原料にし、副材料にスターチや米などを加えて発酵させた酒というのが、一般
的な概念である。アルコール度数が低く、炭酸ガスを含むこと、ホップ由来の独
特の香りやほろ苦さを持つことなど、他の酒にない特徴を持っている。
ビールの呼び名は、国によってさまざまで、英語では「Beer(ビア)」、ドイツ
語では「Bier(ビア)」、フランス語では「Bibre(ピエール)」、イタリア語では「Birra
(ビルラ)」、スペイン語では「Cerveza(セルベサ)」、オランダ語では「Bier(ビ
ア)」、中国語では「哩酒(ピーチュー)」と呼ばれている。

ビールの歴史は、紀元前4千-3千年前まで遡ることができる。しかし、この
時代のビールと、今日のビールとはまったく異質のもので、当時やっと農耕生活一
を始めた人類は、大麦や小麦などを栽培し、これを焼いて食べたり、粉砕して水
を加え、生パンや粥状にして食べていたと思われる。このとき、放置してあった
麦の粥の中に酵母が入り込み、自然に発酵してアルコールが生成され、酒になっ
たのが起源といわれている。

こうした光景は、紀元前3千年ごろのものと推定されるメソポタミアの発掘品
『モニュマン・ブルー』と呼ばれる粘土の板碑に、シュメール人たちが、麦でビ
ールをつくるさまが描かれていることからも推察することができる。
紀元前1500年ころには、大麦を麦芽にしてからパンやビールにする方法が開発
され、ビールづくりはさらに進展した。

北ヨーロッパの古代ゲルマニアでも、紀元前からビールづくりが行なわれてい
た。タキトゥスは、『ゲルマニア』の中で「飲料には、大麦もしくは小麦からつ
くられ、幾分ブドウ酒に似た液がある」と書いている。
こうした古代のビールは、ほとんどの場合、ハチミツやスパイス類などで味つ
けして飲まれた。5世紀ころ、ゲルマン族の間で、そうしたスパイス類をいろい
ろバランスをとりながらミックスしたものをつくり、それをビールに溶かし込む
方法が発達した。ミックスしたものは「グルート」と呼ばれ、できあがったビー
ルは「グルート・ビール」と呼ばれた。グルートの材料としては、タチヤナギ、
イソツツジ、マンネンロウ、西洋ノコギリソウ、ウイキョウ、パセリ、クローヴ
などが用いられた。

ホップは、9世紀ごろからヨーロッパ各地でビールの味つけ用材料のひとつと
して使われるようになったが、13世紀のドイツでホップを大量に使ったホック・
ビールが開発され、好評を得た。これ以後、グルート・ビールに代わって、ホッ
プでさわやかな苦味をつけたビールが、中部ヨーロッパで主流派となる。このホ
ップを使ったビールの地位は、1516年の「ビール純粋令」の発令によって確固た
るものになった。この法令は、バイエルン領邦の君主ウィルヘルム4世が、ビー
ル醸造業者に対して、「ビールは、大麦、ホップ、水だけで醸造せよ」と命じた
もので、これによりグルート・ビールは姿を消し、この法の精神は、ヨーロッパ
各地のビール醸造業者にも多大の影響を与えることになった。
イギリスでは、18世紀になってから、やっとホップの使用が義務づけられるよ
うになった。

ホップの使用と平行して、15-16世紀には、まったく新しい醸造方法がドイツ
を中心に広まり出す。低温で発酵・貯酒するこの醸造法のビールは、現在の「下
面発酵ビール」で、当時は気温の低い9月から翌年の4月ぐらいまでにのみ醸造
されていた。

その後、ビール産業はイギリスの産業革命とともに、工場の機械化を進め、蒸
気機関の発達とともに、近代工業へと変わっていった。
19世紀後半には、リンデの冷却機の発明により、一年中、下面発酵のビールが
つくれるようになり、さらに、パスツールの低温加熱殺菌法によるビールの長期
保存が可能となり、市場を拡大した。

一方では、デンマークのハンセンの純粋培養酵母の発明により、よりピュアな
ビールができるようになり、下面発酵ビールが世界の主流となった。
日本のビールは、明治2年、アメリカ人コープランドが横浜に『スプリング・
バレー・ブルワリー』を創立したのに始まる。明治20年前後には、大資本による
ビール会社が誕生し、エビスビール、キリンビール、アサヒビールが次々に発売
され、さらに、昭和38年、サントリーのビール業界参入があり、現在では沖縄の
オリオンビールを入れて5社で生産している。

現在、ビールは世界のいろいろな国で生産されているが、その総生産量は、約
1億167万klとなる(1990年)。国別にみた場合、生産量の際だって多いのがアメ
リカで、2位のドイツの2倍以上の量を生産している。

ビールの原料

日本のビールは、酒税法により、「麦芽、ホップ、水を原料としたもの」と規
定されている。

麦芽

ビールの主原料である麦芽は、大麦を水に浸し、発芽させてつくる。使用する
大麦は、ビール麦と呼ばれる二条大麦や、北アメリカを中心に栽培されている六
条大麦が使われる。これらの大麦が発芽すると、でんぷん質やタンパク質を分解
する酵素がつくられる。一般的に、二条大麦はでんぷん質が多く、六条大麦はタ
ンパク質が多く、酵素力も強い。
一方、小麦からつくられる麦芽は、特有のフルーティーな香りを生み出す。

ホップ

ホップは、クワ科のつる性多年生植物で、毎年8-9月に雌花につく球花をビ
ールに使う。この球花の中に、ルプリンという黄金色をした粒状の物質が含まれ
ているが、これには苦味成分が含まれている。
こうしたホップをビールに使うと、ほろ苦さと爽快な香り、色つやのよさ、泡
もちのよさ、雑菌の繁殖抑制などの効果がある。
ホップの種類を大きく分けると、華やかな香りとおだやかな苦味をビールに与

えるアロマホップ(チェコのザーッ種、ドイツのハラタウ種など)と、締りのある
苦味をビールに与えるビターホップ(アメリカのクラスター種、日本の信州早生
種など)がある。



ビールの約92%を占める「水」の質は、ビールの品質に大きな影響を与える。
一般的には、淡色ビールには軟水が適し、色の濃い濃色ビールには硬水がよいと
される。

副原料

各国ごとに、その嗜好・風土にあった味のビールをつくり出すため、でんぷん
質の副材料を20-30%の範囲で使用することがある。
副材料の種類としては、米、トウモロコシ、こうりゃん、馬鈴薯などのでんぷ
ん質原料や、糖類(でんぷんを分解したもの)がある。

ビールの製法

ビールの製法は大 り発酵させ、昔ビールをつくるまでの醸造工程、昔ビールを貯蔵後製品化するま
での製品化工程などに分けられる。

製表工程

まず原料となる大麦を水に浸し、水を十分に吸収させる(浸麦)。この大麦を発
芽床に入れ発芽させる。このとき、大麦中のでんぷん、タンパク質が分解し、糖
化酵素(アミラーゼ)を生成する。これをほどよいところで乾燥させ発芽を停める。
こうしてできたものが麦芽である。

このとき、淡色から濃色まで色の違うビールのどれに使うかによって、麦芽の
乾燥を調節する。一般的に、淡色麦芽は低温で短時間の乾燥をし、最終的には80℃
前後で焦がす。濃色麦芽は反対に、高温で長時間かけて乾燥し、最終的には130
-150℃ぐらいで焦がす。また、黒褐色の麦芽で、非常に香ばしい香りを持つ、
カラメル麦芽や色麦芽は、それ以上の高温で強く焦がし、風味づけとしてさまざ
まなタイプのビールに少量使用される。

醸造工程

醸造工程は、原料を糖化、発酵しやすいように、麦芽を粉砕することから始ま
る。粉砕した麦芽は、醸造用水と混ぜられ、温度を45-100℃の範囲内で温水コ
ントロールをしながら、麦芽に含まれるでんぷんやタンパク質を温水の中に溶け
込ませ、麦芽自身の持つ酵素の力で糖化させ、甘い麦汁をつくる。
糖化の終了した麦汁液を濾過して、ホップや副材料を加え煮沸する。ホップを
加えることにより麦汁にビール特有の香りと苦味をつけ、煮沸により麦芽の酵素
の働きを止め、麦汁を濃縮して所定の濃度にする。煮沸終了後、沈澱したホップ
糖やオリは取り除く。このようにして清澄化した麦汁は5-10℃に冷却をし、酵
母を加え発酵させる。発酵は7-10日ほどで終了し、アルコール分約5%の「若
ビール」ができあがる。

この「若ビール」は、香味が粗く、未熟成分が微量に存在していて、風味のバ
ランスが取れていない。そこで貯酒タンクの中で0℃で熟成させ、円熟したビー
ルヘと育てあげる。

発酵に使用する酵母に、上面発酵酵母を使うか、下面発酵酵母を使うかで、二
つのタイプのビールになる。上面発酵ビールの典型は、イギリスのエールで、常
温で発酵させ、強いホップの苦味と香りが特徴である。

日本でおもにつくられているのは、下面発酵酵母によるビールである。6-15℃
と比較的低い温度で発酵させ、味がおだやかですっきりとした味わいのビールで
ある。

製品化工程

熟成したビールは、シートフィルターやケイソウ土濾過機を使い、酵母カスや
凝固物を取り除く。しかし、まだビールの中には微量の微生物が残っているため、
さらにミクロフィルターなどを使って、うま味の成分だけを残し、他の成分はす
べて取り除き製品化する。だが、フィルターを使うにしても、品質のよいビール
をつくるためには、工程全体の一貫したサニテーション(微生物管理)が大切であ
る。

このようにして生まれてくるのが生ビールで、製品化工程中加熱しないため、
クリーンな風味が生きており、これをそのまま、樽、ビン、缶などに入れて出荷
する。

一方・昔から、通常、ラガー(本来は生、加熱殺菌の区別なく、熟成させたビ
ールのことをいう)と呼ばれてきたビールは、粗い濾過をしたあと、ビン、ある
いは缶に詰め・60℃の温水のシャワーを20分間浴びせ、ビン、缶内の微生物を殺
菌している。

しかし、こうした加熱ビールは、加熱した時点で風味も低下するため、最近は
フレッシュでクリーンな風味の生ビールに人気が集まっている。
ビールは、何年置いても微生物の繁殖はないが、タンパク質を含むので、風味
のバランスが崩れやすく、早めに飲んだ方がおいしい。賞味期間は長くても半年、
できれば3ヵ月以内にフレッシュな風味を楽しみたい。

ビールのタイプ

ビールの分類方法は、世界的に共通する絶対的なルールはなく、経験的に「使
用酵母」、「色」、「産地」、「麦汁濃度」、「麦芽の使用量」、「苦味」、「発酵度」、「黙
殺菌の有無」などで分けられるが、比較的よく使われるのが「発酵方法(使用酵
母)」および「ビールの色」による分類である。

ピルスナー・ビール

チェコのプルゼニ(ピルゼン)でつくられる淡黄色のビールを原型とするもので、
現在はこれに似たアロマを持つ淡色ビールの代名詞となっている。日本のビール
のほとんどは、このピルスナー・タイプといえる。

エクスポート・ビール

輸出用という意味ではなく、ビールのひとつのタイプであり、副材料が使用さ
れている。飲みごたえがある味だが、全体的にはおだやかで繊細な感じがする。
苦味も比較的弱く、色はやや濃い。ドイツのヘニンガーなどがある。

ペレス

ドイツの淡色ビールの総称で、ピルスナーより安価で大衆向きである。ホップ
の量も少なく、あっさりとしている。レーベンブロイ、シュパーテンなどがある。

ライト・ピルスナー・ビール

副材料を30-40%使用し、ホップの効果もそれほど強くなく、清涼感を強調し
たタイプのビール。アメリカのバドワイザー、ミケロブなどがある。

ウィーン・ビール

ウィーンで誕生した中等色のビールで、エキス分も高く、アルコールも5.5%
と高い。やや重いタイプだが、苦味は弱い。

濃色ビール

ドイツ各都市でつくられている。濃色麦芽やカラメル麦芽を多く使用し、香ば
しい香りを持った濃色ビールである。甘く濃醇で、ホップの苦味は弱い。

濃色ホックビール

ボックビールは、淡色のものもあるが、一般的には濃いものが主流である。ホ
ップを効かせて、低温で熟成した濃厚タイプのビール。

黒ビール

国産のものは、ドイツの濃色ビールを手本に、日本人向きに少し飲みやすく仕
上げてある。

ぺ一ルエール

ホップの苦味や麦芽の香味が強く、高温発酵に由来する果実香がある。ぺール
とは、色の淡い状態をいう。イギリスのバス・ぺールエールなどがる。

ビールの分類

発酵方法           ビールの色         タイプ           国名

下面発酵           淡色ビール        ピルスナービール      ドイツ
                            エクスポートビール
                            ペレス(淡色)
                            ピルスナービール      チェコ
                            ピルスナービール      デンマーク
                            ライトピルスナービール   アメリカ
                            ラートピルスナービール   カナダ
                            ピルスナービール      日本
               中等色ビール       ウイーンビール       オーストリア
               濃色ビール        黒ビール          ドイツ
                            濃色ボックビール
                            黒ビール日本

上面発酵ビール        淡色ビール        ペールエール        イギリス
                            ケルシュ          ドィッ
                            ヴァイツェン
               中等色ビール       ビターエール        イギリス
               濃色ビール        スタウト          イギリス
                            ポーター
                            アルト           ドイツ
                            スタウト          日本

自然発酵ビール                     ランビック         ベルギー

 

ケルシュ

ドイツのケルン地方でのみつくられているビールである。苦味が強く、酵母に
由来する果実否があり、炭酸ガスが弱い。ドイツではめずらしく、糖類の添加が
許可されている。

ヴァイツェン・ビール

小麦麦芽を50%以上使用したビールで、ドイツのバイエルン地方特産である。
炭酸ガスの刺激が強いが、味は柔らかい。ベルリン周辺でつくられるベルリーナ
ー・ヴァイスは同じタイプのもので、乳酸発酵の酸味が強いので、シロップを混
ぜて飲むことも多い。ヴァイヘンステファンなどがある。

ビター・エール

イギリス産エールのうち、とくに苦味の強いもので、パブでよく飲まれている。

スタウト

砂糖を原料の一部として使い、ホップの苦味の強いビールである。麦芽の香味
を強調している。ギネスなどがある。

ポーター

スタウトに近い濃色ビールで、発酵度が高いので残糖分が少なく、アルコール
が5-7.5%と高い。現在は衰退傾向にある。

アルト

ドイツのデュッセルドルフ周辺でつくられているビール。比較的色は濃く、麦
芽の焦げ臭が強調されていて、苦味も強い。果実に似た香りがある。

ランビック

ベルギーの代表的、かつ伝統的なビールで、特有の香りと酸味を持っている。
未発芽の小麦が35-45%使用され、木樽に付着している酵母とバクテリアを利用
し、主発酵後、1-2年自然発酵(貯酒)される。酸味を和らげるため、チェリー
などを漬け込んだり、砂糖を加えるものもある。クリークなどがある。


主要生産国のビールの特徴

アメリカのビール

アメリカのビールは、あっさりとした味で、苦味が少なく、炭酸ガスが多い。
爽快で、のどごしを重視したタイプである。副原料を比較的多く使用しているの
も特徴のひとつといえる。近年、アペリティフや清涼飲料としての性格が強くな
ってきている。

ドイツのビール

1960年代以降、濃く、重いタイプから、すっきりとした苦味の利いたピルスナ
ー・タイプヘの移行が始まっている(50%以上)。
一人当たりの消費量は、231本(年間)と世界第1位だが、近年、消費量は横ば
い状態が続いている。

イギリスのビール

伝統的に、上面発酵ビールが主流だったが、1970年代以降、下面発酵のラガ
ー・タイプのビールの消費が急速に伸び、だいたい半々になっている。
とくに、若い世代は味のライト化とファッショナブル感覚に敏感で、海外ブラ
ンドのライセンス生産などでつくられる軽快なラガー・タイプのビールを好んで
飲むようになっている。

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