春の突風図鑑
事故例に学ぶ
の海上で、海保のヘリコプターが一枚のボードに つかまって漂流している2人を発見無事救助し た。22時間ぶりに助かったのは、ウェットスーツ を着ていたことと、たまたま流れてきたボードを 見つけてそれに2人でしがみついていたことだ という…」。
一一調べてみると、この日の風は、午後1時ご ろは南西のオンショア4m/s。夕方になって天候 が悪化し、風向きも北東の風15m/sと変わりそ れに雨も加わっていた。


4月24日 鎌倉材木座沖

『午後6時半ごろ、横浜海上保安部に、一緒にウ インドをしてし、た友人が流されたと会社員のCさ ん(23)から通報があった。流されたのは会社員の Dさん(22)で、午後1時頃、強風で沖へ流され材 木座の沖500m付近で2人は離ればなれになって
しまった。午後8時ごろ、Cさんは逗子マリーナ 所属の船で助けられたが、日没後になってもDさ んが戻らないため海保に連絡したという…」 『ところが、翌日午前7時40分ごろ、長者の沖合 い400mの定置網につかまって助けを求めている Dさんを、近くを通りかかった釣り船が発見無 事救助した。横須賀市内の病院に収容されたが、 意識もはっきりしており元気だという…」
一海保の調べでは、午後1時ごろから流され 始め、午後6時ごろまでに、約3キロ離れた長者 ケ崎西沖合まで流されていた。又、相模湾には、 午後8時半から強風波浪注意報が出ており、10 m/S前後のオフショアが吹いていたという。

  4月29日 相模湾大量漂流

『ゴールデン・ウィークが始まったばかりのこの 日の午後、逗子市から三浦市にかけての相模湾沿 岸に強い突風が吹き、風向きが南風から北風のオ フショアに変わった。このため、釣り船のボート や、セーリングを楽しんでいたヨットが次々と転 覆。ウインドサーファーも流された…』 『同夜、横須賀海上保安部がまとめたところによ ると、東京湾、相模湾で突風のために流されたの は40隻、計79人。いずれも、救助艇に助けられた り、自力で海辺にたどりついて無事だったが、去 る24日には、三浦市の県立高校ウインドサーフィ ン部の部員2名が、沖合に流されて死亡する事故 が起きたばかり。新聞の大見出しは、「参事の警告 どこへやら」だった…」
『横浜気象台や葉山署などによると、この日は、 午後8時から4時にかけて"寒冷前線"が北西か ら南東へ通過したためで、カミナリを伴った突風 が吹き、雨も激しく降ったとのこと…』
一葉山港に設置した風速計は、午後1時には 南西の風5m/s、それが午後3時には、突然北西 の風瞬間最大21m/sを記録していた。 また、この日の朝刊に掲載されていた天気予報 によると、「南の風よいのうち強く、のち南西の 風やや強く、くもり時々晴」となっており、日中 の雨の確率は40パーセントだった。
なお逗子湾でセイリングをしていたS氏の証言 によると、「2時少し前、内陸の上空にハッキリと 帯状の黒雲が接近していた」ということだ。
一年中で一番WSFの事故が発生するのは、春 と秋です。どちらも、オフショアによる漂流事件 が主で、時には、死亡事故という最悪の結果をま ねくことになります。
傾向としては、春は、ビギナーよりも冬眠明け でウキウキとビーチへやってきた中級者。秋は、 夏の間にレッスンを受け、少し自信のついてきた ビギナーが多いようです。言いかえれば、「オフシ ョアの恐さ」を知らないケース。ところが、春は 「知っていたけど、油断して…」というケースで す。
以下、実際に起きた、春の突風による漂流事件 をダイジェストしてみました。

4月15日 葉山森戸沖

『会社員のAさん(26)とフリーアルバイターの Bさん(25)は、葉山森戸海岸でウインドをしてい たが、夕方になっても戻ってこないと一緒に遊ん でいた友人が横須賀海上保安庁に届け出た。同日 午後6時半すぎには、この地域に強風皮浪注意報 が出ており、巡視船とヘリコプターが出動して捜 索をしていたところ、翌日午前7時ごろ、江ノ島 の南南西18キロと21キロの海域で、それぞれ2人 のものとみられるセイルを回収。さらに同8時ご ろ、初島の南東3キロの海上でボード2つが相次 いで見つかった…・・」。 『ところが、同2時すぎ、大磯町の南南西8キロ
 
●週間予報では、日本付近の低気圧に向けてシベリアから寒気が入り、四月中の戻り寒波になりそうだ。 ●この日の天気予報は、南のち南西の風ともに強く、曇りのち一時雨、気温は最高19度、最低13度 ●事故のあったこの日、北海道や東北の一部で春の雪が降った。気温は下がったが、水温は高く助かる。
突風のメカニズム

ウインドサーフィンを安全に楽しむためには、 最低でも"寒冷前線"の知識は身につけておきた いものです。前線には、温暖前線、停滞前線もあ りますが、春や秋の突風をもたらすのは、ほとん どが寒冷前線。大げさにいえば"悪魔前線"と呼 んでもいいぐらい。
寒冷前線一一ひとことで言えば、冷たい空気が 暖かい空気に、もぐり込むようにして進む状 態です。このとき、暖かい空気が急激に上空へ押 し上げられるため、上昇気流がおきてカミナリ雲 (積乱雲)などが発生し、空全体に広がります。 ウインドサーファーにとって危険なのは、太平 洋沿岸のビーチの場合、前線の通過前は、ソヨソ ヨとしたビギナー向きの南風が吹いていて、突然、 前線の通過とともに強い北風(オフショア)にな ること。と同時に、急速に気温も下がり、それま でスプリングでも汗をかくぐらいの陽気だったの が、シーガルでも肌寒いぐらいになります。
ただ、気象現象には、必ず何らかの前ぶれがあ るものです。 寒冷前線は一ふつう時速40キロぐらいで移 動してくるそうですが、気をつけていれば、1時 間ぐらい前からその接近を感知することができま す。寒冷前線の前進に伴ってできる積乱雲は"黒 い雲の堤"状になることが多く、高さが10キロぐ らいあるため、平地では約40キロ離れたところか らみえるからです。方角は、北西-西の方から近 づいてきます。

事故例4月29日一一一一の当日も、突風が襲ってく る1時間以上も前から、箱根〜丹沢山方面の上空 に黒雲が発生し、悪魔のように広がっていくのが みえました。で、早めにこの兆候をキャッチした 乗合い釣船やヨットなどは、次々にハーパーめが
けて帰りはじめました。
ただ、突風をもたらすこの黒雲も、いつもそん なにハッキリと堤状になって近づいてくるとはか ぎりません。たいして悪魔っぽくない、灰色雲だ ったりすることもあります。いずれにしろ、春は 西の空に、要注意です。


●春の気候の特色は、気温が高くなったり、低くなった りをくり返し、だんだん暖かくなる。しかし、時おり"寒 のもどり"がある。とくに、低気圧が太平洋岸をスレス レに通過するとき、冷たい北風を呼び込むことが多い。 左ページの天気図でも、15日18時の図を見ると、寒冷前 線が通過後、北東の風が吹き込んでいるのがわかる。ウ インドサーファーにとって、春の寒冷前線の動向は、た えず気をつけておくべきクセ者である。

教訓

寒冷前線の接近は、朝、自宅を出る前のテレビ の天気予報や、新聞の天気図などによって、予測 することもできます。
たとえば、事故例4月15日一一朝刊の天気予報 には次のように書かれていました。 『きょうは北の風くもり時々晴。午後は所に より一時雨』 気をつけてほしいのは、この「所により一時雨」 という表現です。一般的に、低気圧が接近し、温 暖前線により雨が降るときは、その地方が全面的 に雨になります。ところが、寒冷前線の接近の場 合は、「所により・・」という表現になることがよく あるからです。次に、不幸にして突風に襲われ、 沖合に流されてしまった場合。鉄則は、『絶対に、 ボードから離れない』ということ。
なぜなら、強い突風や、激しい雨の区域は寒冷 前線の前後70キロぐらいで、2時間もすれば急速 に回復することが多いからです。

 

また、オフショアで流された時、WSFのハウ ツー本には、「セイルを巻いて、パドリングしなさ い・」などと書いてありますが、強風下でのパド リングは実際には無理,それより、セイルはその ままにして、しっかりボードにつかまり漂流した ほうがベター。そして、もし沖合いまで流されて しまったら、朝まで頑張るつもりで、エネルギー は極力消耗しない方が正解でしょう。
もっともこれは、友人や仲間がビーチに残って いて一一あなたが流されたことを、海上保安庁に 通報した場合、に救助の可能性が出てくるわけで。
たった一人で海に来て、勝手に流され、行方不明 になった場合はどうなりますか…。
"気をつけよう、春のそよ風西の空"

 

「Windsurf CLUB 1994/4より」