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その他のスピリッツ

アクアビット(Aquavit)

じゃがいもを主原料とし、麦芽で糖化、発酵、蒸留したものに、ハーブなどで 香りをつけたスピリッツで、北欧諸国が特産地である。ノルウェーではAquavit、 デンマークではAkvavit、スウェーデンでは両方の表記をとっている。綴りでわ かるように、これは蒸留酒を意味するラテン語Aquavitae(アクア・ヒテ、生 命の水)が変化したもので、蒸留酒としては、もっとも正統的な名前を持った酒 といえる。 アクアビットに関する最古の記録は、1467年から1476年に至る間のストックホ ルム市財政報告書にみられる。それによると、当時のアクアビットは、ドイツか ら輸入したワインを蒸留したもので、いわばブランデーだったようである。今日、 スウェーデンのアクアビットの一種に、ブレンビン(Brannvin、焼いたワイン) というタイプのものがあるのは、その名残りといってよい。 16世紀になると、ヨーロッパ寒冷化の影響でドイツのワイン生産量が減り、ア クアビットの原料入手が困難になってきたので、原料を穀物に切り替えるように なった。

18世紀には、寒冷地栽培に適した新大陸原産のじゃがいもが北欧に普及 し、再度それを原料にするように変わり、今日に至っている。古くから、寒い北 欧の人々の身体を芯から温めるスピリッツとして愛飲されてきた。 アクアビットの製法は、主原料のじゃがいものでんぷん質を糖化酵素(エンザ イム)によって糖化、発酵させる場合と、麦芽によって糖化、発酵させる場合と の二通りがある。前者の場合は、じゃがいも100%のアクアビットとなる。 発酵後、連続式蒸留機でアルコール分95%以上のニュートラル・スピリッツを 取る。これを加水し、アルコール度数を調製して、薬草、香草類を加えてもう一 度蒸留する。こういった製法は、原料の違いを考慮しなければきわめてジンに似 ているといってよい。

香りつけに何を使うかは、国やメーカーによって異なるが、ほとんどのアクア ビットに共通して使われるのが、キャラウェイである。他にアニス、クミン、カ ーダモン、フェンネル、ディルなども使われている。ジンに比べるとハーブ由来 の香りが主体なので、人によってはこのアクアビットのことを、ハーブ・スピリ ッツということもある。 アクアビットは、一般には樽熟成せず、無色透明の状態で製品化されている。 しかし、樽熟成したものもあり、淡い黄色、ないしは黄褐色を呈している。こう した樽熟成のアクアビットの中に、18世紀の歴史ある伝統を守っているタイプと して、リニェ・アクアビット(LinieAquavit、リニェは赤道の意味)がある。当 時は帆船だったので船の重心を下げるために、商品の他にアクアビットの樽を下 部船倉に満載して、オーストラリアヘ往復した。赤道を2回通過して持ち帰った アクアビットは、色が薄い琉珀色になり、風味も樽熟成により向上していて珍重 された。現在のリニア・アクアビットは、その故事にちなんで、ゆっくりと樽熟 成し、樽由来の色と風味を持つに至ったアクアビットの商品名となっている。 北欧諸国では、アクアビットを冷蔵庫で強く冷やし、ストレートで飲むのが一 般的である。身体の芯から温まった感じになり、食欲も湧いてくる。
また、ビー ルを飲むときに、冷えた胃をアクアビットによって温めながら交互に飲む習慣も ある。

ヨルン(Korn)

ドイツ特産の蒸留酒で、無色透明、クセのない味わいが特徴で、麦類などの穀 物が原料である。ドイツ語では、穀物のことをヨルン(Kom)と呼ぶが、そのヨ ルンを蒸留するところから、酒にコルンブラントヴアイン(Kombranntwein、 穀物でつくったブランデーの意味)という名がつき、略してヨルンとも呼ばれる ようになったものである。 EUの規制によれば、ヨルンとは「小麦、大麦、オーツ麦、ライ麦、ソバだけ を発酵、蒸留した酒、または、小麦、大麦、オーツ麦、ライ麦、ソバを原料とし たグレーン・スピリッツからつくられる酒であり、いっさい香味づけをしないも の」となっている。 ドイツはEU加盟国であるから、このEU規制に従っでつくられている。さ らに、ドイツの国内法では、アルコール度数を規制し、通常のヨルンは32度以上、 ドッペルヨルン(Doppelkom、またはコルンブラントKom-Brannt)は38度以 上と定めている。ドツペルとは、英語のダブルにあたる言葉だが、この場合「通 常のものよりアルコール度が高い」という意味あいである。 ヨルンのラベルには、Roggen(ロッゲン、ライ麦)、Weizen(ヴァイツェン、 小麦)、Getreide(ゲトライデ、混合した穀物)などと、主原料を表記したものが 多い。 なお、ドイツではこのヨルンのような蒸留酒を、シュナップス(Schnapps)と 呼び、ジンの項目で述べたシュタインヘーガーも、シュナップスに含まれる。つまり、無色透明で、アルコール度数の高い蒸留酒をシュナップスという語で総称 しているわけである。これは、隣国オランダも同様である、また北欧スカンジナ ビア諸国では、こうした酒以外に、アクアビットのこともシュナップスと呼ぶ。 この場合には、着色したアクアビットも含まれているので、必ずしも無色の蒸留 酒ばかりとは限らない。 ハンガリーなどの東欧諸国でもシュナップスという語は、蒸留酒をさす語とし て使われることがある。

焼酎

焼酎(しょうちゅう)とは、アルコール含有物を蒸留した日本産の蒸留酒で、甲 類と乙類の二つに分類されている。内容的にはスピリッツ類に含まれるタイプだ が、酒税の関係で、酒税法上、別の区分になっている。
焼酎甲類は、アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したもので、そのアルコ ール度数が36度未満のものをさす。この場合、連続式蒸留機という精巧な蒸留機 を使用するので、ライトな風味の酒となる。そのため、コストの点から糖蜜を原 料に使うことが多いが、イモ類や穀類を使うこともある。これらを発酵、蒸留し、 アルコール度数85-97度の蒸留液を得て、加水し、36度未満で製品化する。 焼酎乙類は、アルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機で蒸留したもので、 そのアルコール度数が45度以下のものをさす。蒸留機としては、現実には、単式 蒸留機が使われている。本格焼酎とも呼ばれ、九州南部や南西諸島がおもな産地 になっている。 歴史的にみれば、この焼酎乙類のルーツは、日本で生まれた最初の蒸留酒とい ってよい。

その製法は、東南アジアから海上ルートを経て沖縄に伝わり、15世紀 後半にはこの地で蒸留が行なわれていたと考えられている。 くだって、1559(永禄2)年には、薩摩の大口村で焼酎が飲まれていたという記 録が残っている。これは薩摩産の米でつくった焼酎であり、庶民の間でもかなり 飲まれていたと推測されている。ちなみに、薩摩地方にサツマイモが渡来したの は、1705(宝永2)年に琉球から山川町にもたらされたのが初めでたといわれる。 この後、焼酎づくりは九州南部に広がり、球磨地方や宮崎地方で盛んにつくら れ、やがて九州北部、中国、四国地方で酒粕を原料とする粕取り焼酎が広まる。 これらは、いずれも単式蒸留機で蒸留されていたので、現在の焼酎乙類に相当す る酒である。 日清戦争後の明治28(1895)年ごろに、ヨーロッパから連続式蒸留機が日本へ輸 入される。焼酎甲類に相当する酒がつくられるようになったのは、明治40年代に 入ってからのことである。当時、この新しい酒は「新式焼酎」と呼ばれ、在来型 の単式蒸留機でつくる焼酎は、「旧式焼酎」と呼ばれた。 そして、この新式焼酎が、現在では焼酎甲類となり、旧式焼酎が現在の焼酎乙 類となっているのである。 焼酎乙類は、単式蒸留機を使うため、エチル・アルコール以外の成分も数多く 留出するため、原料の違いがそのまま酒の風味の違いとなってあらわれる。その 風味も概してヘビーである。 原料の違いから焼酎乙類を区分すると、泡盛、もろみ取り焼酎(イモ焼酎、米 焼酎、麦焼酎、ソバ焼酎、果糖焼酎)、粕取り焼酎の3タイプに分けることがで きる。 泡盛は、沖縄特産の焼酎で、黒麹菌を繁殖させた米麹だけでつくられる。


土中 に埋めたカメで長期熟成させたものは古酒(クース)といい、とくに珍重されてい る。 もろみ取り焼酎は、米麹のもろみに、イモ、米、麦、ソバ、果糖糖蜜などを加 え、発酵、蒸留したものである。鹿児島県のイモ焼酎、熊本県球磨地方の米焼酎 (球磨焼酎)、壱岐の麦焼酎、宮崎県のソバ焼酎、奄美大島特産の果糖焼酎などが ある。 粕取り焼酎は、清酒を絞った残り粕に、もみがらを混ぜ、せいろに並べてから 蒸気を通し、粕の中のアルコールを回収したもの。もみがらの焦げ臭がついた強 烈な香味を持つ焼酎である。地方によっては、さなぶり(早苗饗)焼酎と呼ぶこと もある。 オコレハオ(Okolehao) ハワイの特産酒で、タロイモ(現地ではティ、Tiとし)う)を原料にした蒸留酒 である。 オコレハオは、ポリネシア語で「鉄の尻」を意味する。1790年ごろ、イギリス の蒸留業者ウイリアム・スチーブンソンが旅行でこの地を訪れたとき、タロイモ が豊富なことに目をつけ、これを原料に蒸留酒づくりを試しみだ。その際、捕鯨 船の鉄の釜で即席の蒸留釜をつくったのだが、そのさまが、豊満な肉体の尻の形 を連想させたので、こうした名がついたといわれる。現在は、オケ(Oke)という 略称で呼ばれることもある。
製法は、ポリネシア、ミクロネシアー帯に繁茂しているタロイモを糖化、発酵させたのち、連続式蒸留機で蒸留し、樽熟成を経て、製品化される。 ハワイの現地人は、ストレートで飲むことも多いが、コーラやジュースで割っ て飲むのが一般向きといえよう。 アラック(Arrack、Arak) 東南アジアから中近東にかけてつくられている蒸留酒の総称である。その語源 は、アラビア語のaraq(アラク、汁の意味)からきたといわれているが、異説も ある。 初めは、ナツメヤシの実(ゲーツ)の汁を発酵、蒸留してつくっていたようだが、 その後、蒸留技術が伝わっていく経路の中で、さまざまな原料が試しみられるよ うになり、今ではいろいろなタイプのアラックが、その土地ごとにつくられてい る。それらを大きくまとめると、

@ナツメヤシの実の汁を蒸留したもの(日本のゲーツ焼酎にあたる)
Aココヤシ、ニッパヤシなどの花序を切って集めた樹液を蒸留したもの
B糖蜜を蒸留したもの(これは、ラムと同じ酒で、名称が違うだけと考えて よい)
C米(おもにもち米)を蒸留したもの D糖蜜ともち米を蒸留したもの
Eキャッサバを蒸留したもの などになる。

白酒(パイチュウ)

白酒は、中国の伝統的な蒸留酒の総称で、わが国でいうスピリッツとほとんど 同じ意味で使われている名称である。なお、醸造酒に相当する酒は、黄酒(ホワ ンチュウ)と呼んでいる。 中国で白酒がつくられるようになったのは、アラックの影響が強かったようで ある。暑い南方では、醸造酒で保存するよりも、蒸留してアルコール分を高めた 方が長期保存ができることを知った宋時代に、蒸留酒は急速に普及していった。
白酒の代表的なものに、茅白酒(マオタイチュウ)、沿酒(フェンチュウ)、五根 液(ウーリァンイェ)などがある。 白酒は曲(ギョク、麺とも書く)という中国独特の麹を使って穀物を糖化、発酵 」させる。発酵を終えたもろみは、蒸留釜へ移され、数回蒸留してアルコール度数 65%前後の原酒を得る。酒質は重厚で、荒々しさも持っているため、カメなどの 陶器に入れて貯蔵し、風味がおだやかになってから出荷する。 茅白酒は、香りの分類では醤春型で、貴州省茅舎鎮で産する。原料は、紅コウ リャン、小麦の他、近年は米も使っているといわれる。発酵、蒸留に9ヵ月、さ らに最低3年間貯蔵熟成する。 沿酒は、清春型で山西省沿陽県香花村の産物である。
原料のコウリャンを粉砕 して、大曲とともに2回発酵させる。蒸留後、3年ぐらい貯蔵熟成を行なう。 五根液は、濃春型に分類され、四川省宜賓で産する。五穀すなわちコウリャン、 トウモロコシ、もち米、うるち米、ソバの5つの原料を使うところからその名が ある。白酒の中では、洋酒に近い芳香を備えている。 高梁酒(コウリャンチュ)は、天津産のものが品質的によいといわれている。な お、高梁酒の普及品は、白朝見(バイカル)と呼ばれる。

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